26.雨か涙か
「アレンくんが今一番欲しいモノってなぁ〜に?」
唐突な質問に目をパチクリさせていると、
目の前で綺麗なツインテールが不思議そうに首を傾げた。
「そうねぇ〜食べ物とかだとありきたりだし、
……っていうか、きっともうジェリーさんに聞かれてるでしょ?
だから食べ物以外で、たとえば普段身につけるもので
何か欲しいものある?」
「……そ、そうですねぇ……」
多分、教団一気の利く彼女のことだから、
近くに迫ったボクの誕生日プレゼントのことを言っているのだろうと思った。
けど、そんなボクの頭の中をよぎったのは、
恐ろしく、けどとても切実なものだった。
「今一番欲しいものは……」
「欲しいものは?」
「……愛……ですかね? アハ…あはははは」
「もう、アレンくんったらぁ〜!」
そんな僕の発言を冗談ととったのか、
リナリーは『かんがえといてね?』と笑うとその場を後にした。
「はは……冗談なんかじゃ……ないんだけどなぁ……」
そう。
今、僕が一番欲しいもの。
それは漆黒の髪と瞳を持った、孤高のエクソシスト。
彼が自分のものになったなら、僕はどんなに幸せだろう。
僕は生まれつき、物に対する執着がない。
それはどんなに強く願っても、
欲しいものは決して手に入らないということを、知っているから……。
たとえ欲しいものが目の前にあったとしても、
それは決して僕のモノにはならない。
あわよくそれがすぐ近くまでやってきたとしても、
簡単に僕の手をすり抜けて行ってしまう。
そんな、諦めにも似た考えが、いつもどこかにある。
だから僕がどんなに神田を好きだとしても、
彼は決して手に入らない。
心のどこかにそんな冷めた感情があった。
すると、いつの間に居たのか、
すぐ背後から、神田の声がした。
「おい、モヤシ」
「えっ?! あっ、はい?」
「お前、街まで出向いて、元帥から大事な書類を預かってこいって
コムイに言われたのを、忘れたのか?」
「あっ、はい。そうでしたっ!」
そうだった。
ついさっきコムイさんに呼ばれて、
街までの用事を言いつけられていた。
途中リナリーに声をかけられて、うっかりしてしまっていた。
「……にしても、何で神田がそれを知ってるんですか?」
僕が不思議そうに聞き返すと、彼はいつもの様に無愛想に答える。
「チッ、俺もアイツに呼ばれて、お前と一緒に行くように言われたんだ。
めんどくせぇ……」
「は……はははっ……」
僕は苦し紛れの愛想笑いをすると、
スタスタと先に行ってしまおうとする彼の後を、小走りで追いかけた。
教団の外は、まだ昼間だというのにどんよりと曇っていて、
お世辞にもいい天気とは言えない状況だった。
「なんか、すぐにでも降ってきそうですね?」
「あぁ……うぜぇ。 早いトコ済ませんぞ」
そう言って街に向かう途中、案の定大粒の雨が急激に降り出した。
まるでたらいをひっくり返したような土砂降りに、
さすがの僕らもたまりかねて、
大きな木の下で少し雨宿りをすることにした。
「はぁ……これでまた遅くなっちゃいますね?」
ボクの問いかけにも神田は黙ったままで、
何を考えているのか無愛想にそっぽを向いたままだ。
「この雨、いつになったら小降りになるんでしょ?」
まぁ、無視されるのは今に始まったことではないので、
僕は気にせずマイペースに独り言と洒落てみる。
……すると……。
「お前、さっき言ってたのは本気なのか?」
「え? あの、さっきって……いつのことですか?」
「リナリーと立ち話してた件だ」
「は? リナリーと?
あ!……あはは……聞かれちゃってたんですか?
そうですねぇ〜まぁ、確かに、その通りではあるんですが……」
「じゃあ、やる……」
「え? あの、やるって……なにをっ?ん?」
次の瞬間、僕は自分の頭の中を疑った。
そりゃ、僕は決して頭の良い方じゃありませんよ。
神田のことが大好きで、
キスなんて出来ちゃったらいいなぁ〜なんて思ってましたよ。
だからって、なんでこんな真昼間から、
妄想のまんまの白昼夢なんて見てなきゃいけないんですか。
……けど、ん? んっ? んんん〜〜〜〜???
神田の顔がとんでもない至近距離にあって、
睫毛なんて信じられないぐらい長くて、
そんじょそこいらの女性なんて目じゃないぐらい綺麗な顔してて。
で、そんな神田の唇が、今僕の唇に触れている。
……信じられない!
それが離れていくどころか、どんどんきつく抱きしめられて、
あろうことか生暖かいものが口の中に入ってくる。
なんか、どんどん息苦しくて、切なくなって……。
そしてどんどん心臓の鼓動が早まって、立っていられなくなってしまう。
「……んっ……ふぅ……っ!」
いつしか僕は神田に抱きすくめられたまま、
激しいキスに酸欠で眩暈を起こしていたらしい。
ふと、正気に戻ると、見たことのない優しい顔が、
僕の目の前にあった。
「大丈夫か?」
「へ? ……っ、は……い……?
あの、これって……なんなんでしょう?」
「だから、さっき言っただろ?
お前が今、一番欲しいものをやるって」
「それって……あのっ……そのっ……」
「そのかわり、これは永遠に返品不可だ。
かまわねぇか?」
「……!……」
僕が一番欲しいもの。
それは神田の愛。
それをキミが本当にくれるとい言うのなら、
どうして返す真似なんて出来るだろうか。
あまりの嬉しさに、思わず涙が零れおちる。
「……泣いてんのか?」
「え? あれっ? あはは……
これはきっと……空が僕のかわりに、嬉し泣きしてくれたんですよ」
「はっ、変な奴……」
そう言って憎まれ口をきく神田の声は、
いつもより少し高めで、少し意地悪で、けど、とても優しかった。
そしてそれからの僕は、
雨のように降り注ぐたくさんのキスを、
彼から受けることになる。
────欲しいもの。
たまには口にしてみるのも、いいのかもしれないな?
〜『あとがき』という名のお詫び;〜
いやぁ〜〜〜、いつもいつも更新を滞っててすみませんっっ;
なのに、こんな放置状態のサイトに足しげく通ってくださっている皆様に、
ホント、感謝、感謝でございますm(_ _ ;)m
現在、オフ本用の小説を頑張って執筆中ですw
2009年の初コミで頑張って2冊刊行しようと、
ものっそい野望を目論んでおります♪
今回はその中休みでちこっとお題小説など書いてみましたw
普段は三人称ですが、お題はあえて一人称でトライ★
たまにはこういうのもいいですね(  ̄ー ̄)*☆
これからも中々更新できない日々が続くとは思いますが、
時折、余裕のある時にこうして更新していきたいと思いますので、
これからも当サイトをお見捨てなきよう、
よろしくお願いいたします〜〜〜f^_^;
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